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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)241号 判決

甲事件原告

青山義登

甲事件被告・乙事件原告

国際興業株式会社

甲事件被告

吉岡義人

乙事件被告

青山こと李律子

主文

一  甲事件被告会社及び甲事件被告吉岡は、甲事件原告に対し、連帯して金一三五万三二〇〇円及びこれに対する平成七年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告は、甲事件被告会社に対し、金一六万九五三九円及びこれに対する平成七年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告及び甲事件被告会社のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件、乙事件を通じてこれを五分し、その一を甲事件原告及び乙事件被告の負担とし、その余を甲事件被告会社及び甲事件被告吉岡の負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

甲事件被告会社及び甲事件被告吉岡は、甲事件原告に対し、連帯して金二九五万六四四九円及びこれに対する平成七年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

乙事件被告は、甲事件被告会社に対し、金一二七万七六九五円及びこれに対する平成七年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)に関し、次の金員の請求がされた事案である。なお、付帯請求は、いずれも、本件事故が発生した日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

1  甲事件

本件事故により物損を被つた甲事件原告が、甲事件被告会社に対しては民法七一五条に基づき、甲事件被告吉岡に対しては民法七〇九条に基づき、損害賠償を求める。

なお、甲事件被告らの債務は不真正連帯債務である。

2  乙事件

本件事故により物損を被つた甲事件被告会社が、乙事件被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を求める。

二  争いのない事実等

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成七年一月一日午前一一時四〇分ころ

(二) 発生場所

神戸市須磨区多井畑東町七番地の一一先 信号機により交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 争いのない範囲の事故態様

乙事件被告は、普通乗用自動車(神戸三五つ五八九九。以下「甲事件原告車両」という。)を運転し、本件交差点を、東から西へ直進しようとしていた。

他方、甲事件被告吉岡は、普通乗用自動車(神戸五五を一一九七。以下「甲事件被告車両」という。)を運転し、本件交差点を、北から西へ右折しようとしていた。

そして、甲事件被告車両の前面左部と、甲事件原告車両の右側面後部とが衝突した。

2  甲事件被告らの責任原因

甲事件被告吉岡には、信号機のない交差点を右折するにあたり、左方からの直進車の有無、動向を確認すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失があるから、民法七〇九条による損害賠償責任がある。

また、本件事故当時、甲事件被告吉岡は、甲事件被告会社の業務に従事中であつたから、甲事件被告会社は、民法七一五条による損害賠償責任がある。

3  各車両の所有関係

甲事件原告は、甲事件原告車両の所有者である(甲第二号証により認められる。)。

また、甲事件被告会社は、甲事件被告車両の所有者である(証人辻本泰啓の証言により認められる。)。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様及び乙事件被告の過失の有無、過失相殺の要否、程度

2  甲事件原告、甲事件被告会社に生じた損害額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  甲事件被告ら

甲事件原告車両が進行する道路は、交差点における見通しが悪いのであるから、乙事件被告は、本件交差点に進入するにあたつては、徐行の上、交差道路を進行してくる車両の有無を注視し、安全を確認すべき注意義務があつた。

にもかかわらず、乙事件被告は、右義務を怠り、漫然と制限速度を超える速度のまま本件交差点に進入した過失によつて、本件事故を惹起したものである。

したがつて、乙事件被告は、民法七〇九条により、甲事件被告会社に生じた損害を賠償する責任がある。

また、甲事件原告の請求にあたつては、乙事件被告の過失は被害者側の過失として評価すべきであり、相当程度の過失相殺がなされるべきである。

2  甲事件原告、乙事件被告

乙事件被告は、甲事件原告車両を運転して本件交差点に進入するにあたり、徐行の上、安全確認義務をつくした。

そして、本件事故は、前記の甲事件被告吉岡の一方的過失によつて発生したものである。

なお、仮に、乙事件被告に何らかの過失があつたとしても、甲事件被告吉岡の過失と比べると、きわめてわずかなものにすぎない。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  甲第三号証の一ないし一三、第一五号証、乙第一号証、甲事件被告吉岡及び乙事件被告の各本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実の他に次の事実を認めることができる。

(一) 本件交差点にいたる東西道路は、片側一車線、両側合計二車線の道路で、幅員は一車線につき三・五メートル、合計七メートルであり、これと別に、両側に幅各二・五メートルの段差のある歩道が設けられている。また、東から西へ向かつて、勾配一〇〇分の七の下り坂である。

本件交差点にいたる南北道路は、幅員五・〇メートルで、車線の区別はなく、平坦な道路である。

(二) 甲事件被告吉岡は、本件交差点北側の横断歩道付近で、甲事件被告車両を一時停止させ、左右の安全を確認した後、本件交差点を右折すべく自車を発進させた。ただし、右停止地点から東約一五メートルの歩道上に電柱が立つていたともあつて、左方の確認の仕方は充分なものではなかつた。

そして、甲事件被告吉岡は、約四・五メートル進行して左側約七・一メートルの地点に西進してくる甲事件原告車両を認め、直ちに制動措置を講じたが及ばず、約四・一メートル進行して、甲事件原告車両の右側面後部に自車の前面左部を衝突させた。

なお、甲事件被告車両は、右衝突後約四・〇メートル進行して、本件交差点南西角部の歩道に設けられた金属製の柵に衝突して停止した。

(三) 他方、乙事件被告は、制限時速である四〇キロメートルを上回る速度で本件交差点に差しかかり、右前方約五・七メートルの地点に甲事件被告車両を認め、直ちに制動措置を講じたが及ばず、約八・八メートル進行して、自車の右側面後部に甲事件被告車両の前面左部を衝突させた。

なお、甲事件原告車両は、右衝突後、半回転しながら前進し、約二五・七メートル西進して停止した。

2  甲事件被告吉岡及び乙事件被告の各本人尋問の結果の中には、いずれも自車は徐行しており、低速であつた旨の部分があるが、前記証拠により認められる衝突してから停止するまでの両車両の暴走距離に照らすと、いずれも信用することができない。

そして、右事実によると、乙事件被告にも、本件交差点を通行する際の安全確認義務違反の過失があつたことは明らかである。

また、右事実によると、本件事故に対する過失の割合を、甲事件被告吉岡が八〇パーセント、乙事件被告が二〇パーセントとするのが相当である。

二  争点2(損害額)

1  甲事件原告

争点2に関し、甲事件原告は、別表1の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、同原告の損害として認める。

(一) 損害

(1) 車両損害

甲第四号証の一ないし六、甲事件原告の本人尋問の結果によると、甲事件原告車両の修理代が金一六三万八〇三八円と見積もられていることが認められる。

また、甲第一八号証、弁論の全趣旨によると、本件事故当時の甲事件原告車両の評価額が金一五〇万円であることが認められる。

そして、このように、交通事故により中古車両が破損した場合において、当該車両の修理費相当額が破損前の当該車両と同種同等の車両を取得するのに必要な代金額の基準となる客観的交換価格を著しく超えるいわゆる全損にあたるときは、特段の事情のない限り、右交換価格からスクラツプ代金を控除した残額が当該車両の車両損害になるというべきである。

なお、本件においては、スクラツプ代金を認定する確たる証拠はないが、車両のスクラツプ代金が発生することは当裁判所に顕著であり、弁論の全趣旨により、これを金五万円と認め、右評価額金一五〇万円から右金額を控除した金一四五万円を甲事件原告車両の車両損害とするのが相当である。

(2) レツカー代

甲第五、第六号証により、金一万八五〇〇円が認められる。

(3) 代車料

交通事故により車両が使用不能となつた場合に、代替車両を使用する必要があり、かつ、現実に使用したときには、相当な修理期間または買替期間に対応する使用料は、交通事故による損害というべきである。

本件においては、甲第七ないし第一四号証、甲事件原告本人尋問の結果によると、甲事件原告が代替車両を使用する必要があつたこと、一日当たり金七〇〇〇円の使用料を支払つて、現実に代替車両を使用していることが認められる。

そして、甲第三号証の一二及び一三、第四号証の一ないし六、検甲第一、第二号証、弁論の全趣旨によると、甲事件原告車両の修理期間または買替期間を一四日間とするのが相当であると認められるから、代車料は、金九万八〇〇〇円となる。

(4) 評価損

前記のとおり、甲事件原告車両は本件事故により全損の損害を受けたというべきであるから、評価損が発生する余地はない。

(5) 小計

(1)ないし(4)の合計は、金一五六万六五〇〇円である。

(二) 過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する乙事件被告の過失の割合を二〇パーセントとするのが相当である。

そして、甲事件原告及び乙事件被告の各本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、甲事件原告は乙事件被告の父親であること、右両名は単一の世帯を構成していること、乙事件被告は、甲事件原告の承諾のもとに甲事件原告車両を運転していたことが認められ、これによると、乙事件被告の過失を理由として、甲事件原告の損害について右割合による過失相殺をするのが相当である。

したがつて、過失相殺後の金額は、次の計算式により、金一二五万三二〇〇円となる。

計算式 1,566,500×(1-0.2)=1,253,200

(三) 弁護士費用

甲事件原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、甲事件被告会社及び甲事件被告吉岡が負担すべき弁護士費用を金一〇万円とするのが相当である。

2  甲事件被告会社

争点2に関し、甲事件被告会社は、別表2の請求欄記載のとおり主張する。

これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、同被告の損害として認める。

(一) 損害

(1) 修理費

乙第二、第三号証により、金五六万七六九五円が認められる。

(2) 休車損害

乙第四号証、証人辻本泰啓の証言によると、甲事件被告会社においては、タクシー一台の一日当たりの売上が同被告主張の金三万五〇〇〇円を超えること、収入に対する全経費の割合は八割程度、固定経費は四割程度であることが認められる。

そして、休車損害は、得べかりし利益の損失として、収入から流動経費を控除した金額をもとに算定するのが相当であるから、一日当たり金二万円の休車損害が発生した旨の甲事件被告会社の主張が認められる。

また、甲第三号証の一一、検乙第一号証の一ないし三、弁論の全趣旨によると、甲事件被告車両の修理期間を一四日間とするのが相当であると認められるから、休車損害は、金二八万円となる。

(3) 小計

(1)及び(2)合計は、金八四万七六九五円である。

(二) 過失相殺

争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する甲事件被告吉岡の過失の割合を八〇パーセントとするのが相当である。

そして、本件事故当時、甲事件被告吉岡が甲事件被告会社の業務に従事中であつたことは当事者間に争いがないから、甲事件被告吉岡の過失を理由として、甲事件被告会社の損害について右割合による過失相殺をするのが相当である。

したがつて、過失相殺後の金額は、次の計算式により、金一六万九五三九円となる。

計算式 847,695×(1-0.8)=169,539

(三) 弁護士費用

甲事件被告会社が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であるが、本件事故により甲事件被告会社が甲事件原告に対して損害賠償債務を負担することを考慮すると、乙事件被告に弁護士費用を負担させるのは相当ではない。

第四結論

よつて、甲事件原告の請求は主文第一項記載の限度で、甲事件被告会社の請求は主文第二項記載の限度で、それぞれ理由があるからその範囲で認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表1(甲事件原告)

別表2(甲事件被告会社)

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